東京圏の建物老朽化リスクとは、なに?


東京圏では、コロナウイルス感染症の拡大による「コロナ移住」が進み、東京一極集中が止められるとの予測もありましたが、実際には、3月・4月の新年度に向けて生じる「新社会人や進学」により、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県からなる「東京圏」全体でみると、2020年1年間では、前年に比べ約5万人減少したものの、トータルでは約10万人の転入超過となりました。

 

このうち、東京都では、約31,000人の転入超過となっています。これは、緊急事態宣言が出ていた今年の2月・3月でも、東京圏全体では転入超過となっています。転入超過の要因は、本年6月30日のブログでコメントしています。

 

【なぜか、東京一極集中が加速しています!】

 

コロナ危機で東京一極集中の是正され、地方創生ができるのでは?と期待の報道等もありましたが、現実には、日本において、大都市に人口が集中する背景は、企業や人が集まることによる「空間的集積」からのメリットが享受できることが大きな要因の一つです。

 

この現象は「集積の経済」と言われていますが、企業や人が集まると、人材獲得や知識の拡散効果、サービスの多様性などの新たな価値が波及的に生み出されます。

 

企業が東京に集積する要因は、最初のきっかけは中央政府の行政機能の集中であったとしても、今、多くの企業が東京に立地するのは、それだけではなく、同業者・取引先・情報等が集まり、かつ、東京が国際的な玄関口であり、このことが「集積の経済」を更に高めることから、東京への集積が続いています。

 

今回のブログの視点は、今後も「東京一極集中」が進む中での、「東京の都市の問題と課題」について、取り上げます。

 


今、東京23区内で、都市計画決定による大規模な再開発事業プロジェクトが23区内の要所で建築工事等が進行しています。

 

一方、再開発地域に含まれない大部分の東京の住宅密集地は、加速的に「建物(戸建て・マンション)の老朽化」と「地域住民の高齢化」が大きな喫緊の問題となっています。

 

現実問題としては、大通りから一歩入れば、幅員の狭い道路の両側に、狭小敷地の連坦や狭溢道路・行き止まり通路に、築60年以上の老朽木造建物が多く密集しており、東京における木造住宅密集地域の問題が解決・解消できずに、そのまま残っています。

 

国土交通省では、この「密集市街地の整備」について、2012年から地震防災対策の一環として、その解消に向けて進めていますが、一部の地域で、都市計画法の地区計画等により、徐々には減少しているものの、ほとんどの地域では、手つかずで、解消の目途はたっていないのが現状です。

 

木造建物における密集市街地においては、居住者の高齢化や、空き家の増加に加え、借地権など権利関係も複雑に絡んでいます。

 

共同建替えの計画や建物の更新については、密集市街地整備法の適用、都市計画法・建築基準法の緩和措置、また、自治体からの交付金等の支援があったとしても、自己負担の資金面などから、地区住民の自主的な計画・実行は困難であり、今後、解決までのロードマップが全く見通せない状況となっています。

 

これらの地域に居住する住民は、日照・通風等の住環境の悪化とともに、災害時の延焼や避難の危険のリスクが高く、放置できない問題であります。

 

東京都内における木造住宅密集地域は、下図のとおり、都心中心部を囲む広い地域に存在しています。

  


((財)首都圏不燃建築公社のパンフレットから引用)
((財)首都圏不燃建築公社のパンフレットから引用)

加えて、1970年代から開発が始まったマンションにおいても、老朽化が進行し、深刻な問題となっています。

 

マンションは、区分所有法によって、建物の除却や建替を行う場合には、所有者の高い同意要件が課せられており、大規模修繕はできても、建て替え・更新は資金面からの同意は難しく、マンションがスラム化となるリスクが差し迫っています。

 

東京圏におけるマンションの老朽化対策がとれない要因の一つに、「取り壊すこと」「更新すること」について、現行法では、その実行について、高いハードルを講じているためです。

 

どういうことかと言いますと、マンション区分所有法では、取り壊すためには、区分所有者全員の同意(被災したマンションは5分の4以上の同意)が必要であり、建て替えであっても、5分の4の同意が必要です。

 

老朽化した賃貸住宅の耐震化のための建て替える場合、借り手側は、家賃上昇を抑えたい借家人の権利が保護され、必要な同意が得られず、また、建て替えをする所有者側においても、現行の建築基準法に適合する住宅(新耐震基準など)を求められることから、建て替えに要する多額の建築コストと家賃収入の収支で採算が取れずに、結果として、見送るケースが少なくありません。

 

今後、1970年代に建築したマンションの老朽化による災害リスクは、避けれないこととなるため、区分所有法の同意基準の見直しや、建築基準法の耐震基準の見直しなど、マンションの建て替えが容易に可能となる柔軟な法令改正が求められています。 

 



では、老朽化したマンションが抱える現実的な問題について、みてみましょう。

 

関係法令に基づいて実施される大規模修繕において、外壁コンクリートの補修・塗装や防水工事の更新等は行われますが、躯体の中に入り込んでいる設備や配管などの劣化については、細部までの修復や更新は、現実にはできない状況です。

 

また、現在の建築基準法の耐震基準は、1981年(昭和56年)に改正されたもので、それまでに建築されたマンションは、震度5弱までの地震しか耐えれない「旧耐震基準」で設計されています。

 

このことは、震度6以上の地震が起きた場合には、耐えられる構造設計がされていない建物ですので、安全性の確保はできない建物です。

 

国内において、直近10年間の震度5強以上の地震は、全国で78件が起きており、東京圏においても、近い将来に、震度5強以上が起きる可能性は否定できない状況です。

 

また、都心では、新築マンション需要の増加傾向が続いている一方、老朽化マンションの空室率が高まっています。

 

マンション空室率が30%超えると、修繕費や管理費が不足して管理組合が機能しなくなり、マンションのスラム化や廃墟化が進行すると言われています。

 

それでは、老朽化したマンションは、どのような対策を講じていけばいいのでしょうか。

 

老朽化マンションの売却は、現実には難しい状況であり、前項で記述のとおり、住民の5分の4以上の同意が得られれば、建物を取り壊して更地に戻し、建て替えするか、土地を売却するかの選択があります。

 

しかし、取り壊すだけでも、多額の解体費が必要であり、建て替えの場合には、原資となる修繕積立金では全く足りず、住民が負担できない多額の建築費等が必要となるため、建て替え計画に至らない場合がほとんどです。

 

容積率に余裕があれば、マンション敷地の一部を売却して原資にすることも可能ですが、現実には、建て替えが行われた事例は少ないのが実態です。

 

老朽化マンションについて、確実に深刻化していますが、現時点、打開策は見当たらず、今後、行政と所有者・住民が将来リスクを共有して、老朽リスクを回避できる「住」の安全を確保する政策と仕組みの創設を期待したいところです。

 

東京一極集中が続く「東京」の「住」から始まる未来について、「一人ひとりが安心して暮らせる街」を築く必要があります。

 


【徒然のひとこと】 

大都市「東京」が抱える問題は、建物老朽化リスク以外に、多くの問題が顕在化しており、かつ、深刻化しています。

 

東京圏が直面する困難な課題は、増加する高齢者と医療・介護・福祉体制、待機児童、財源格差、所得格差など、様々な問題を乗り越えていかなければなりません。

 

当事務所では、微力ですが、できるところから、この問題と課題に取組み、多くの方々の意識を喚起できて、連携と協働という枠組みを構築して、未来を切り拓く一助ができればと願っています。