相続分譲渡は、贈与になる?


無償による相続分の譲渡は、贈与になる(最高裁判決)って、どういうこと?

   先月の10月19日に、最高裁判決において、相続に関する事案で、重要な判断が示されましたが、みなさん、ご存知でしょうか?

   相続の実務では、よくある事例です。

   原審の東京高裁(H29.6.22)は、相続分譲渡は、遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与に当たらないと判断したため、原告が上告した事案(事件名:遺留分減殺請求事件)です。この判決が、H30.10.19に最高裁判所第二小法廷で判示されました。

 

   本件の相続関係図を簡単に言いますと、母が長男一人に、全財産を相続させる遺言を残して亡くなった場合、財産を相続できなかった長女は、遺留分請求(最低限、譲り受ける相続財産を侵害された場合に、侵害した相続人に対し、請求できる権利)において、母が相続開始時に有していた遺産だけでなく、生前に母が長男に贈与した財産も加えた財産額で計算しますが、この「贈与」に、父が亡くなった時、母の相続分を長男に無償譲渡した財産が、贈与に当たるかか否かが争われました。


   東京高裁はこれは贈与に当たらないと判断したところですが、その判断に対して、原告が上告した今回の最高裁判決は、相続分の譲渡は、相続分というプラス財産とマイナス財産を包括した経済的価値の譲渡であるから、プラス財産とマイナス財産を考慮した相続分に財産的な価値がない場合以外は、民法第903条【特別受益者の相続分】第1項の「贈与に当たる」と判断したところです。

 

   この判決から、母が亡父から相続した相続分が財産的な価値を有する限り、母から無償で譲渡されたものであっても、母から長男への贈与となりますので、遺留分計算においては、母の本来の遺産額に、母が亡父からの相続分(長男への無償譲渡分)を加算した合計額が「遺留分計算の基礎となる財産額」と判断した判決です。


   これまで、相続の実務では、相続問題の解決する一手法として、相続分の譲渡(無償か、無償とほとんど同じレベルの有償)を取ってきたケースが多々ありますが、今後は、遺留分請求に、無償の譲渡分が「贈与」として含まれますので、遺留分を侵害していないか否かについて、遺言書の作成においては、慎重に取り扱う必要があります。


徒然のひとこと

 最近の相続においては、遺言公正証書を作成して、法定相続と異なる指定分割をするケースが多く見られます。このため、財産を十分に譲り受けれない相続人(兄弟姉妹以外の法定相続人※兄弟姉妹は遺留分なし)は、遺留分を請求するケースも少なくありません。

 

   遺言者は、あとに、相続人の間で争いになることを避けるためにも、各相続人の遺留分を侵害しないよう、遺言書の作成において、十分な配慮が必要となります。

  

   H30年7月の40年ぶりの相続法大改正においても、これまでの「遺留分減殺(げんさい)請求」に変わって、「遺留分侵害請求」が新設(施行は2019年7月まで)され、遺留分を金銭で支払う仕組みとなります。また、生前贈与の期間についても、これまでの実務上では、「一生分を含む」でしたが、今回の改正で、期限を相続時点から「10年」に限定されたところです。

 

   当事務所は、相続・遺言に関する多くの判例を熟知しておりますので、ご心配のことなどありましたら、お気軽に、ご相談ください。