2023年4月から施行「相続土地国庫帰属法」って、なに?



2023年3月30日に「相続土地国庫帰属法」について、法務省ホームページから、その概要がアップされました。

 

施行は、2023年(令和5年)4月27日からです。

 

これって、なに??、ほとんどの方の直感では、ないでしょうか?

 

2018年以降、土地に関する関連法が、次々と、改正・創設されていますが、各法律の必要性や関連などについて、やや難解のところもあり、行政の関係者以外には、十分に周知されているとは、言い難い状況です。

 

今回のブログでは、関連の法体系など、全体をわかりやすく解説します。

 

はじめに、この法律の施行に至った経緯は、一つの要因として、東日本大震災(2011年3月)の復興事業の用地取得において、65%以上の土地が相続未処理や多数共有などにより、権利関係の調査・確認・調整に多大な労力を要したことから、所有者不明土地に係る制度見直し(土地政策と民事基本法制の両面からの制度見直し)が契機となったところです。 

 

主な制度見直しについては、次のとおりです。

 

1 所有者不明土地法 

  (正式な名称は「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の成立)(2018年6月)

 

2 土地基本法の改正

  (2020年3月)

 

3 民事基本法制の見直し

 

  (1) 不動産登記法の改正

  (2021年4月成立、2023年4月以降、順次施行)

 

  (2) 民法の改正

  (2021年4月成立、2023年4月施行)

 

  (3) 相続土地国庫帰属法(新法)

  (2021年4月 成立、2023年4月施行)

 

4 所有者不明土地法 改正

  (2022年4月)

 



◆1の「所有者不明土地法」(2018年(H30)6月 成立)の概要をみてみましょう。

 

(1) 地域のための所有者不明土地を利用できる「地域福利増進事業」の創設 → 使用権を設定(R4改正 上限20年)(R1.6.1施行)

 

(2) 公共事業における所有者不明土地の収用手続きを合理化、円滑化 → 所有権を取得(R1.6.1施行)

 

(3) 土地の所有者の探索のために必要な公的情報(固定資産課税台帳、地籍調査票等)について、行政機関が利用できる制度を創設(H30.11.15施行)

 

(4) 長期間、相続登記等がされていない土地について、登記官が「長期相続登記等未了土地である旨」等を登記簿に記載することができる制度の創設(H30.11.15施行)

 

(5) 所有者不明土地の適切な管理のために必要がある場合には、地方公共団体の長等が家庭裁判所に対し、財産管理人の選任等を請求可能にする制度の創設 (H30.11.15施行) 

 

 

◆2の「土地基本法の改正」(2020年(R2)3月 成立)の概要をみてみましょう。

 

(1) 所有者不明土地の発生抑制や東日本大震災のような災害の予防・復興など、持続可能な地域で形成を図る観点から目的規定の見直し

 

(2) 法全般において土地の適正な「利用」と並んで新たに「管理」の必要性を明示

 

(3) 新たに土地所有者の責務として、登記等権利関係の明確化と所有権の境界の明確化に努めることを規定

 

(4) 地域住民等は土地所有者による適正な利用・管理を補完し、国・地方公共団体は、その取り組みを推進するための措置を講ずることを明示

 

以上、土地基本法改正は、民事基本法制全般にわたる見直しの理論的土台を規定したところです。

 

 

◆3の「(1) 不動産登記法改正」(2021年4月成立、2023年4月以降、順次施行)の概要をみてみましょう。

 

(1) 相続登記や住所変更等登記の申請義務化

 

(2) 相続人申告登記の新設(手続き負担の軽減化)

 

(3) 職権で住所変更等を登記に反映させる方策の準備

 

(4) 所有不動産記録証明制度の新設(登記漏れの防止)

 

(5) 外国に居住する所有権の登記名義人の国内連絡先の登記 等   

 

 

◆3の「(2) 民法改正」(2021年4月成立、2023年4月施行)の概要をみてみましょう。

 

(1) 不明共有者がいる場合に金銭供託等により共有関係を解消する方策の整備

 

(2) 所有不明の土地・建物に特化した財産管理制度や管理不全の土地・建物の管理制度の整備

 

(3) 水道・ガスなどライフライン設置のための隣地使用を可能とする相隣関係規正の整備

 

(4) 相続開始から長期間経過した遺産の分割方法の見直し

 (10年経過後は法定相続分で簡明に分割) 等

 

 

◆3の「(3) 相続土地国庫帰属法(新法)」(2021年4月成立、2023年4月施行)の概要をみてみましょう。

 

(1) 相続した土地の国庫帰属を可能とする制度の創設

 

(2) 負担金(10年分の管理費相当額)を納付

 

以上となりますが、70%以上の多くの方は、「知らない、または、わからない、関心がない」ではないでしょうか?

 


法務省「相続土地国庫帰属制度のご案内(令和5年4月版)」より
法務省「相続土地国庫帰属制度のご案内(令和5年4月版)」より

ここでは、この4月27日に施行される「(3)の相続土地国庫帰属法」(新法)について、掘り下げてみましょう。

 

相続によって、望まない土地が自分名義になったため、その維持・管理が大変で、困っている方が少なくありません。

 

管理が大変な土地は相続せずに、預金・金融資産だけの相続を希望したものの、他の相続人の承諾を得られずに、やむを得ず、土地も相続した事例が多くあります。

 

こうした土地は、一定経過後には、管理せずに放置し、所有者不明土地の発生につながるため、それを抑制することが本法の目的です。

 

本法では、こうした事例の場合、所有者が希望すれば、相続土地国庫帰属法の施行により、指定の条件を満たすことで、相続した土地の所有権を国に移転できるようになります。

 

一言で言えば、相続した利用しない土地を手放し、国に引き渡す制度です。

 

◆ 申請の仕組み

 

手続きの仕組は、希望者が承認申請を行い、管轄法務局の審査(実地調査含む)を通過すれば、相続した土地の所有権と管理責任を国に引き取ってもらえる制度です。

 

申請できる土地は、相続により取得した土地に限られ、管理費用に当たる所定の負担金の納付が前提となります。

 

農地や山林も申請の対象となり得ます。

 

◆ 申請対象者

 

申請対象者は、相続により土地を相続又は遺贈(法定相続人以外)で、「土地の全体を所有する権利」、または、「土地の共有持分」を取得した者です。

 

◆ 申請先・審査

 

申請先は、その土地を管轄する法務局へ「承認申請と添付書類一式」を提出し、審査手数料(土地一筆当たり14,000円)(収入印紙)を納付 し、審査を受けることとなります。

 

◆ 審査結果の通知、負担金の納付、国庫帰属

 

審査の結果、申請が承認されると、その旨の通知が申請者に届きます。そして、10年分の土地管理費相当額を算出し、「負担金」の通知が申請者に届きます。

 

30日以内に負担金の納付となります。

 

負担金の納付と同時に、国に当該土地の所有権が帰属します。

 

◆所有者にとってのメリットは、なに? 

 

 買い手がつかない利便性等の低い土地などは、要件を満たせば、国が引き取ってくれるため、今後の管理に相当額の費用を負担せず、確実に手放せるため、利用しない・利用できない相続の土地に係る心痛がなくなることは、大きなメリットといえるでしょう。

 

◆ 所有者にとってのデメリットは、なに? 

 

最大のデミリットは、この制度(国への帰属)を利用するには、10年分の負担金の納付の問題です。

 

負担金は、申請の当該土地について、「宅地」「農地」「森林」「その他」の4種類に区分され、この区分に応じて、負担金が算出されます。

 

申請土地が「宅地」の場合、面積にかかわらず、「20万円」が原則です。

 

例外として、宅地のうち、都市計画法の市街化区域又は用途指定されている地域の土地の負担金は、次の面積区分に応じた算出となります。

 

 (1)  50㎡以下     →(面積×4,070円)+208,000円 (  50㎡の場合→411,000円)

 

   (2)  50㎡~100㎡  →(面積×2,720円)+276,000円 (100㎡の場合→548,000円)

 

   (3) 100㎡~200㎡  →(面積×2,450円)+303,000円 (200㎡の場合→793,000円)

 

   (4)   200㎡~400㎡  →(面積×2,250円)+343,000円 (400㎡の場合→1,243,000円)

 

   (5)  400㎡~800㎡  →(面積×2,110円)+399,000円  (800㎡の場合→2,087,000円)

 

   (6)  800㎡超      →(面積×2,010円)+479,000円 (1,000㎡の場合→2,489,000円)

 

負担金のほかに、所有権以外の権利が登記されていれば、所有権以外の権利は、所有者自らが、すべて抹消しなければなりません。 

 

また、境界が明らかでない場合には境界の確定費用も、所有者負担となりますので、かなりの費用負担を覚悟しなければなりません。

 

◆ 申請できない土地

 

下記の土地は、申請できない土地(却下事由:5項目)となります。

 

(1) 建物がある土地

(2) 担保権や使用収益権が設定されている土地

(3) 他人の利用が予定されている土地

(4) 土壌汚染がされている土地

(5) 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲に争うがある土地

 

下記の土地は、承認を受けることができない土地(不承認事由:5項目)となります。

 

(1) 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地

(2) 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地

(3) 土地の管理・処分のために、除去しなければならない有体物が地下にある土地

(4) 隣接する土地の所有者との訴訟によらなければ管理・処分ができない土地

(5) その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

 

現実には、相続した土地は、農地・森林を除けば、建物がある土地が該当しますが、この場合、建物を解体・撤去して、更地にしておかなければならないことになります。

 

以上、申請の前に、総額の費用負担を算出しておくことが必要となります。 

 

★ 詳しくは、こちらへ 「相続土地国庫帰属制度のご案内」(法務省)

 

★ ポスターは、こちら

 

動画は、こちら

 


【徒然のひとこと】 


 

「相続土地国庫帰属制度」は、相続した土地で、利用しない(できない)土地を手放したい方には、この制度の申請を検討すべきでしょう。

 

相続後に係る土地の維持・管理において、膨大な費用負担と心痛を考えれば、申請可能な土地であれば、早いうちに、申請の検討を始めたいところです。

 

しかし、申請しようとしても、境界確定がされてない土地や家屋の解体・撤去して更地にしなければ、申請できない土地も少なくありません。

 

それらを解消するための費用も、審査料+負担金に加えて、確保しておく必要があります。

 

この制度を利用したいが、問題点など含めてのご相談をお受けし、より良い対応策を一緒に検討して参りますので、当事務所に、お声かけ下さい。