農業を始めるための農地は、どうする?



農業を始めるにあたって、農地の取得について、全国から当事務所に、具体的な案件のご相談など、多くいただいております。

 

農業を始めるためには、「農地」が必要となります。

 

新規就農を志す方にとって、大きな壁となるのが、この「農地の取得」問題です。

 

農地を借りるにも、購入するのも、「農地法」がいくつもの高いハードルを設けています。

 

両親が農業従事し、農地も所有している場合、その相続は、地域の農業委員会への届出で、簡単に農地を相続できますので、特別な許可申請を経なくても、継続して、農業を営むことができます。

 

問題は、農地を持っていない、これから農地を取得して、農業を始める新規就農の方です。

 

新たに農業を始める場合に、どうやって、農地を手に入れることが、できるでしょうか?

 

ここでは、三つの方法(1 農地法第3条申請、2 利用権設定、3 競売(農地))による取得について、ご案内します。

 

1【農地法第3条許可申請による農地取得】

 

農地は他の土地と異なり、許可(農業委員会)を受けずに、勝手に売買(賃貸)することができません。

 

農地の定義は「耕作の目的に供されている土地」をいい、具体的には、作物の栽培のために土地を耕し、肥料を与えて灌漑や除草など、肥培管理している土地です。

 

農地は、さらに、田・畑・果樹園・牧草採草地などに分類され、農地の取扱いは、農地法で細かく定められています。

 

農地法は、耕作者本人が「農地を所有することが適当である」とする前提で、耕作者の農地取得の促進、耕作者の権利の保護などを図ることを目的として、施行されてます。

 

農地の売買だけでなく、譲渡や転用についても、この農地法で細かく規制しています。

 

平成21年の農地法改正で、株式会社の農業参入など、一部の規制緩和されて、農地を所有するハードルは、農業法人には低くなってますが、個人の新規就農者には、依然として、農地取得の高いハードルがあります。

 

農地取得には、取得方法の一つとして、農地法第3条に基づいて、地域の農業委員会の許可を受けなくては、農地の取得(賃貸含む)ができません。

 

一般には、土地を購入する場合には、売り手と買い手が売買契約を締結し、買い手がその代金を払って、所有権移転登記し、所有権を取得します。借りる場合も、貸し手と借り手が契約を締結し、賃借権の設定等を行うことになります。

 

しかし、耕作目的で、農地を買ったり借りたりする場合、農地法第3条に基づいて、農業委員会の許可を受けることが必要となります。この許可を受けないで場合、所有権移転登記や賃借権の設定等ができず、効力が生じないこととなります。

 

◆農地法第3条に基づく農業委員会の許可は、次の要件を満たす必要があります。

 

1 全ての農地を効率利用:もともとの農地と新たに購入する(借りる)農地を全て効率的に利用して耕作すること

 

2 下限面積:原則として、50a以上あること(市町村によっては緩和あり)

 

3 地域との調和:水利調整に参加など、周辺の農地利用に支障がないこと

 

4 解除条件付き貸借(借りる場合):農地を利用しない場合には契約解除の条件付き契約の締結し、地域の話し合いに参加するなど、地域の農業者と協力して、継続的で安定的な農業経営を行うことが認められること

 

なお、上記の「4」を満たさない場合には、個人であれば、農作業に常時従事(通作距離含む)、法人であれば、下記の農地所有適格法人の4要件を満たす必要があります。

 

5 法人の場合には、上記以外に、農地所有適格法人の4要件(法人形態要件、議決権要件、事業要件、役員要件)が必要となります。

 

 以上、農業委員会が許可するか否かは、農地の受け手が「農地を効率的に利用するか否か」について、受け手の農業経営状態・農業就業状況や農業経営面積など「営農計画書」の提出を求め、現地調査も含めて、審査して判断されています。 

 

なお、農地の貸し借りには、農地法に基づく農業委員会の許可によるほか、【2 利用権の設定】があります。 

(詳しくは、次項でご説明します。)

 



2【農業経営基盤強化促進法の利用権設定による農地取得】

 

 次に、農地法(第3条)の許可を要しない「利用権設定等促進事業」について、ご説明します。

 

農地を所有・賃借する場合には、農地法とは別に、「農業経営基盤強化促進法」の適用で「利用権設定等促進事業」があります。

 

利用権設定等促進事業とは、市町村が農用地の売買・賃借等について、集団的な権利の設定・移転の計画である【農用地利用集積計画】を作成し、公告することにより「権利の移動」を行っています。

 

この場合の農用地の権利の移動は、地域の自主的な土地利用調整を尊重し、農業経営基盤の強化の促進を図る観点から行われるため、本事業による耕作のための「農用地の利用権設定」と「所有権移転等」については、農地法第3条の許可を要しないとされています。

 

最近では、賃借権設定の大部分と所有権移転の過半がこの利用権設定【農用地利用集積計画】で行われています。

 

【利用権設定のメリット:農地法の制限の適用除外】

 

◆農地の権利移動の許可制(第3条・第5条)→ 許可不要

 

◆小作地の所有制限(第6条)→ 市町村の内でも外でも小作地が所有できる

 

◆賃借権の法的更新(第19条)→ 期限が来ると自動的に終了する

 

対象農地は、市町村の「農用地利用集積計画」の中での「農地」に限定されることや、必ずしも希望する農地の賃借が叶わない場合もありますが、個人で農業を始める場合には、農地法の許可申請と比べて、ハードルは低くなり、農地を取得できる可能性は高くなります。

 



3【競売(農地)による農地取得】

 

先日も、「農業を始めるにあたり、農地の競売物件の入札を検討しています。裁判所の入札公告には、「買受適格証明書を有する者に限り入札できる」とあります。

 

「農地を持っていない私でも、買受適格証明の許可書を受け取れるのでしょうか?」 のご照会がありました。

 

農地を含む競売の入札には、「買受適格証明書」の提出が必須条件となっております。

 

農地を含まない競売は、公告の3週間後が入札期間(1週間程度)となってますが、農地を含む場合には、農業委員会の買受適格証明書が必要なため、公告の3ヵ月後以降に入札期間が設定されています。

 

ご照会の競売物件(農地)における買受適格証明書の申請は、管轄の農業委員会にもよりますが、農地法第3条申請と同様に、以下の各要件を満たさなければ、許可は難しい状況です

 

また、申請には、農地所有の下限面積(50a以上)(緩和の市町村あり)があります。

 

申請時点で、この下限面積以上の農地を所有(所有・賃貸・使用貸借、いずれも可)していなければ、申請はできないことになります。

 

参考までに、直近の事例(埼玉県内)に提出した書類です。

 

・買受適格証明書願(農地法第3条第1項許可申請)

・耕作面積証明書(既に農地所有の農業委員会)

・競売対象農地の土地登記簿謄本

・公図ほか(競売物件の公告資料)

(・法人の場合:履歴事項全部証明書)

 

・農業経営計画書

(別冊) 営農計画書(申請地を含む全体の営農計画書)

(組織概要・農業経営の目標・生産計画・農業施設・農業機械等・農業経営費など)

(証明書を受けようとする農地の営農計画、通作距離、農業機械等の状況など) 

・誓約書

 

(追加資料)

・競売対象農地における栽培管理等の雇用計画及び営農開始スケジュール

 

農地所有適格法人や農業経営者は、上記の書類作成は可能ですが、個人でこれから農業を始める場合には、買受適格証明書の申請は、手続き的には農地法第3条申請と全く同じですので、競売入札対象の農地を取得することは、現実的には、難しい状況です。

  

できる方法は、あらかじめ、利用権設定等により、50a以上(市町村によっては下限面積の緩和あり)の農地を確保(賃貸や使用貸借)した後で、競売物件(農地)について、買受適格証明書の提出を検討することになります。

 

以上、農地法第3条の要件を満たせば、買受適格証明書の申請は可能であり、農業委員会の審査で、特段な事情がない限り、許可されることとなります。

 


【徒然のひとこと】 

当社グループは、農業、農業関連事業についても、幅広くご支援をしております。

 

先日も、農地法第4条(農地転用の制限)について、お問合せがありました。

 

事案は、「農地を養殖池に一時転用」する場合のご相談です

 

本件は、令和3年3月4日に通達がされ、これまで一時転用する場合の期間が3年でありましたが、「協定で地域農業の振興に資することが確保されている場合」には、10年以内に延長され、再許可による期間更新も可能となりました。

 

これら農地法上の取扱いについて、適宜的確な知識を持たなければ、可能なものも前例がないからできないと、判断されるケースもありますので、農業・農業関連事業の法令等に精通した専門家への依頼をお勧めします。

 

当社グループは、農業・農業関連事業などについて、フルサポートで、ご支援しておりますので、お気軽にご相談ください。